時には昔の話をしよう

あることないこと交えつつ、昔の話。






学生時代に毎週通っていた小さな楽器店があった。

老夫婦が経営するお店で、

5分もすれば一回りできてしまうような小さな小さな楽器店だった。

私は楽譜を立ち読みして覚えたり、

買う予定もない楽器を眺めたりするだけで、お世辞にも良い客とは言えなかった。

それでも、本当にたまにギターのピックを買ったり、

白紙の楽譜を買ったりしたりもするのだった。



店主の彼女の声を、私は聞いたことがなかった。

が、理由はすぐにわかった。

レジのすぐ脇には、メモ用紙と小さな看板があったのだ。

「店主は口が利けませんが、筆談でお話をします」




彼女は何か、病気を患って声をなくしたのだと、誰かから聞いた。

彼女と私はよく話をした。

話をした、といっても筆談するまでもなかった。

あのバンドの楽譜は何処にありますか?と聞く。

彼女は黙って、微笑んで本棚を指差す。

店主の彼は、今何処にいますか。

彼女はタバコをすうジェスチャーをして、外を指差す。


不思議だった。それで通じるのだから。






やがて私は学校を卒業し、

毎週通っていたのにもかかわらず、

通学路から外れたその店には通わなくなった。




それからずーっとたったある日、

私たちの町を地震が襲った。

たいした地震ではなかった。




災害の最中で、人間が生きるうえで、

真っ先に切り捨てられるのは芸術である。

地震のさなか、楽器を新たに購入しようと思う人物などいない。

ただでさえ少なかったその店の客足は、ぱたりと途絶えた。

そうして、街が復興へと向かうさなか、

ひっそりとその店はなくなった。




彼女はあのあとどうしたのだろう。

老夫婦のかたほうは、亡くなったと聞いた。

口の利けない老齢の身で、彼女は今いったい何をしているのだろう。









ということで、鈴の屋さんとクリアさんの
モデルさんのお話。



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時雨屋

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