コールドスリープ(SF短編)


こんな夢を見た。

私たち、数十人の乗組員は、宇宙船に乗って銀河を旅していた。
ところが、事故が起きてしまった。
軌道がずれ、気づいたときにはもう遅く、最寄の文化のある惑星まで200年以上かかるという。
そこで、私たちは交代で互い互いを凍結保存(コールドスリープ)することにした。

1年ごとに、二人の乗組員を起こし、互いの寿命を少しずつ使いながら、宇宙船を操縦するのである。
そんな私たちのパートナーはロボットだ。彼がコールドスリープすることはない。
彼は決して老いることもなく、私たちの宇宙船の操縦をサポートしてくれる。
彼は、古いガスマスクを被ったような風貌をしていて、
細い銅の金属でできた体は、「頼りになりそう」とは間違っても言えなかった。

私と、もう一人の乗組員は、コールドスリープから目覚めた。
これから1年、この3人のメンバーで、残り数十人のクルー達の命を預かるのである。

…。
ガスマスクのような風貌のロボットは、その姿からは想像もつかないほど情緒豊かだった。
くだらないことで腹を立てたり、喜んだり、彼といると、単調な宇宙船の毎日も退屈ではなかった。
一度、彼に聞いたことがある。
「200年、交代に乗組員を起こし、退屈ではないか?寂しくはないか?」と。
ロボットはこう答えた。
「まさか!そんなことが。この世は天国ですよ」
と。

私は、ロボットが好きだった。
だがしかし、もう一人の乗組員はそうではなかったらしい。
彼はロボットを嫌っていたし、また彼もロボットを嫌っていた。
私の前では口論をしないものの、互いが互いを避け、彼とロボットの仲はとても悪かった。
私は、私と彼がコールドスリープにつく時、ロボットが彼に何かをするのではないかと不安に思っていた。


1年がたち、私と彼もまたコールドスリープされるときが来た。
次の番の乗組員を起こし、仕事の引継ぎや報告をしてから、眠るのが決まりだった。
静かな宇宙船も、この数日だけはにぎやかになる。
…といっても、3人が5人になるだけなのだが。

しかし、その時はやってこなかった。
ロボットは、コールドスリープを強行したのである。
永い眠りにつく直前、私はロボットがもう一人の乗組員の上に立っていることに気がついた。
何をするつもりだ、の声は既に冷凍されかかっている喉からは出なかった。
しかし、目はまだ動かせる。

私の、コールドスリープされる直前の目は、
ロボットの表情が確かにこわばったのを見た。

「ああ、なんてことを」
と、ロボットは言った。
「私は、『彼の脳みそを掻き出してしまいました!』

私は叫んだ。

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目が覚めた。
いつもの自分のベッドの上だ。
だがしかし、あたりは真っ暗で、まだ夜である。
手元のスマホを見ると、時刻は3時42分。
夜中である。

私は、今見たものが、夢であったことに安堵し、
同時に、頭が本当に冷凍されたかのように冷え切っているのを感じた。
頭がこわばっている。ただひたすらに、今見た夢は恐ろしい。

気温は、春にしては肌寒い。
私は毛布を被りなおすと、目を閉じた。
実は私は、夢を見ているだけなのかもしれない。
この暗い部屋は、実は私が宇宙船の中で、
コールドスリープされている瞬間に見ているただの夢なのかもしれない。
私はひとしきり震えた後、目を閉じた。

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こんな夢を見た。

宇宙船の、外のデッキに立っている。
吹き付ける風は涼しく、大気圏の中に入っていることは確実だ。

この星はまだ夜で、大陸の上に数々の文明の光があることが見て取れる。
何も光がないところは海である。
一見、いままでずっと見てきた銀河の星のきらめきと何の差もない。
だがしかし、その光はたしかに、人間が生きているあかしの光なのだ。
私は涙した。


…後ろで、監視カメラの赤い光が光っていた。
この宇宙船は、もはやロボットの監視下にあったのかもしれない。




2016/03/30
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