アウトサイダーの見た×××


※このブログにはラヴクラフトの「アウトサイダー」のネタバレがあります。
了解している人のみ「続きを読む」からどうぞ。










よろしいですか?













■クトゥルフ体系の中のアウトサイダー



Howard_Phillips_Lovecraft_in_1915_(2).jpg


ラヴクラフト。
20世紀最後の「怪奇小説作家」と呼ばれている作家です。
では怪奇小説とは?
なんか恐い、ホラーな、化け物の出てくる小説のことです。
現代はほとんど見ないですね、この「怪奇小説」というジャンル。
作家で言えば、エドガー・アラン・ポー、スティーブン・キング、江戸川乱歩、夢野旧作…あたりでしょうか。
夜が文明の光で包まれる現代では、まず見られないジャンルです。

ラヴクラフトといえば「クトゥルフ神話」が有名です。
彼自身は、「本が好きな誰かが、誰かが図書館とか本屋とかで、いろんな本を乱読しているうちに、
『クトゥルフ神話』という大いなる恐怖を、断片的に、垣間見て欲しい、という意図で書いたものが
ラヴクラフトの『クトゥルフ神話シリーズ』です。

さて。
ラヴクラフトの「アウトサイダー」(局外者)はクトゥルフ神話とはちょっと外れた内容となっています。
というか、ほとんど関係がない。
しいて言えば…主人公が「化け物」であることにクトゥルフ神話的な要素でしょうか。
クトゥルフ神話シリーズのお話としても、「アウトサイダー」が「アウトサイダー」であることはちょっと面白いですね。



■あらすじ


「アウトサイダー」のあらすじはこんな感じです。

薄暗い古城の地下室。
火が全く差さず、存在する灯はランプの光だけ。
かび臭い書庫が立ち並ぶ、何故か人骨が大量においてある場所で主人公は暮らしています。
なぜ自分がここにいるのか。ここはどこなのか。
主人公は知りません。また、何時からここにいるのかすらわかりません。
自分以外の人間というモノを見たことのない主人公は、
いつしか本の中に存在する「外の世界」が狂おしいほどに憧れを感じるようになります。

空を見たい。
月を見たい。
一生、こんな地下室にいるぐらいならいっそのこと死んでしまったほうがましだ。
決心した主人公は、古い城の地下を脱出し、外の世界へと出て行くことを決めます。

出入り口は当然のごとくない様で。
主人公は、地下室のずっと端にある、空高く聳え立った塔を、
内側から指を引っ掛けて上り始めることにします。

もはや後戻りできない高さまでクライミングしてしまう主人公。
上れども上れども、天井は見えない。灯もどんどん遠くなり、何時しか真っ暗の中、塔を上る主人公。
そろそろ限界だ。もう指に力が入らない。
塔から落ちて死んでしまうかもしれない…そう思った刹那、主人公の頭は天井にぶつかります。
必死に指を這わせると、天板があることに気づきます。
頭で思いっきり押し上げて、とうとう塔の頂上の小部屋にたどりついたのです。

しばらくすすむと、鉄格子の向こうから、月の薄明かりがさしました。
遠い記憶のかなたの月の光を見て、窓に駆け寄る主人公。
さあ、自分はとんでもない高さの塔のてっぺんにいるのだ。
きっと城は森に覆われていて、この塔からは全貌が見渡せるだろう…そして、
月が森を優しく照らしていることだろう。

そう思って窓の外と眺めると…。
そんなことはありませんでした。
ここはただの地上だったのです。
古めかしい木々が生い茂る、しめ臭い、月光が差し込む樹海。
主人公は、地下から地上に出ただけに過ぎなかったのです…。

主人公はよろよろと、樹海をさまよい始めます。
ある時は白い道を通り。
あるときはアーチをくぐり、
石の坂や、石の柱のあいだを通り抜け。

主人公はある、一軒の家を見つけます。
薄暗い夜の中、こうこうと灯る、家の明かり。
中では何かパーティーをやっているらしく、陽気な声や歌声が聞こえてきて、みんな楽しそうにしているようです。
何を言っているのかはわからないけど、主人公は家の中に入ろうとします。

しかし。
主人公が部屋の中に足を踏み入れた瞬間。
明るく和気藹々としたパーティーが、一瞬にして地獄絵図へと変化します。
それまで仲良く談笑していた人々は、阿鼻叫喚の叫びを上げ、あるものは気絶し、絶叫し、椅子とテーブルはひっくり返り、
気絶したものは他のものが引きずっていき…。
気づくと、部屋には誰もいなくなっていました。

いや、います。
部屋の向こうに、誰かの気配がするのです。

金色のアーチのついた出入り口がそこにあり、同じ作りの別室へと繋がっているようなのですが、
そこでなにかがちらりと動いたのです。
不審に思いながら部屋に近づいた主人公は、部屋の向こうの化け物を見て叫んでしまいます。

その化け物の姿が、どんなものであったか。
不潔で、回帰で、歓迎のされない、奇形で、どろんと何かがとけでたようなもの。
見るからに不健康で、醜いものがぽたぽたとたれおち、この世のならぬ…いや、この世のものではないことは、見ればわかります。

そんな化け物が、主人公を見ていたのです。
主人公はまるで頭が麻痺したように…その腐った目玉に魅入られたように、逃げようとしても逃げられなくなってしまいました。

それでもなんとか逃げようとして、その金縛りを解くようにして手足をばたつかせ、バランスを崩した主人公は、
ぐっと化け物に近づいてしまいます。
化け物の息がかかるような至近距離。
あわてて主人公は、その化け物を半狂乱で払いのけようとして…


鏡に触れたのです。




■アウトサイダーとは誰か



以上がアウトサイダーのあらすじです。
なんてことはない、主人公が化け物であることに気づけない話。
鏡を生まれて初めて見た主人公は、自分が自分であると認識できず、
醜い化け物が「同じつくりの部屋の向こう」にいると錯覚します。
でもその化け物は…自分だったのです。

まぁツッコミどころ満載な短編ですけどね。
なんで鏡に映った自分がわからないんだよ。むしろちょっと下見ろよ。自分の体ぐらいわかるだろ。
で…。この主人公って何者なんでしょう。
原作に寄れば、「鏡を見た瞬間、自分が何者で、どこで生まれて、どうしてあの古い城に思い出したんだけど、
鏡を見たあまりのショックで全部忘れた」っていうわけのわからん陳述になっております。
随分なご都合主義だな。わけわかんねえよ。

…で。
クトゥルフ的に言えば、恐らく主人公は「グール」です。
食屍鬼。
ゴムのような弾力のある皮膚を持ち、亜人型の怪物。
体中がカビに覆われており、早口で泣くように話すという…。

っと、今手元のクトゥルフTRPGめくって調べてみたんですが。
こうやって主人公に「種族名」をつけてしまうと、なんだかこの短編の魅力がものすごく薄れてしまう気がします。

この短編。
「主人公が怪物で恐い」
のではなく、
「主人公の絶望が恐ろしい」なのです。


クトゥルフ神話…ラヴクラフトの短編では、主人公は基本的にひどい目にあうものが多いです。
大体の場合、この世ならざるものを見て発狂してます。
まあ、アウトサイダーもその例外ではありませんが。

しかし、ラヴクラフト作品では巻き込まれ方が
「仕方なく」「不運が重なって」「悪い予感がしつつ」「だめだなーと思いつつ」などの、マイナスの要素がすごく多いのです。

ですが…
「アウトサイダー」だけは別なのです。
怪奇ホラー小説作家、「ラヴクラフト」が書いた、
唯一「光に向かって、希望を持って前へと進む」主人公。
泣けてくるほど健気です。

自分が何者であるかわからない恐ろしさ。
塔から落ちて、死んでしまったも構わない。外の世界が見たいという健気さ。
明るい家があって、思わずふらふらと釣られてしまう人への恋しさ。
そして自分の正体に気づいた後の、主人公の絶望…。

原作は名作なので、是非読んで欲しいです。
クッソよみにくいけど。



■アウトサイダーの見た鏡



さて、この短編。
原作には「鏡」と言う文字が1箇所も出てきません。
元英語もざっと読んでみたけど、みらーなんて単語はありませんでした。
でも、物語の最後で主人公が触ったものが「鏡」以外の何者でもないことはすぐにわかります。
では、アウトサイダーの見た鏡って、一体どんなものだったんでしょう?

原作には、「金色の飾りのついた、出入り口」と書いてあるので、
全身鏡であることは間違いないでしょう。
でも、応接間なんかに、パーティー会場なんかに鏡なんて置いておくのでしょうか?
そもそも、主人公が見て自分だと認識できない鏡って、垂直においてある気がするけど?
それって建築物に直接ついてるってこと?

…さて。
鏡というものは、昔は高価なものでした。
超が超つくほど超高価なものでした。


William_Orpen_-_The_Signing_of_Peace_in_the_Hall_of_Mirrors,_Versailles

ベルサイユ宮殿ってあるでしょう。
あそこに「鏡の間」っていうのがあるんですが。
あれは超が何個もつく、超超超超高級な部屋だったのです。
「大きな1枚鏡」すなわち「大きな一枚ガラス」を作る技術と言うのはものすごく貴重だったためです。
そのため、庶民が持てる鏡なんてほとんどありませんでした。せいぜいで手鏡ぐらい。


鏡にまつわる話と言うのは、本当に興味深いものが多いです。

鏡を手に入れた中国の百姓が、
妻に「その隣にいる女は誰よ!」(鏡に映った妻)っていわれて
「そっちこそその隣の男は誰だ!」(鏡に映った百姓)と言い返したり、
こまって離婚訴訟まで発展し、やってきた役人が鏡を見て
「やべえ俺以外に役人がいる!!!」と驚く民話。

チンパンジーの群れを飼う実験で、
群れで飼ったチンパンジーに鏡を見せれば、鏡を「物を移す物質」として認識できるのに、
単体で飼ったチンパンジーは「鏡に移った自分の姿」を「もう1匹のチンパンジーとして認識する」
=他者がいなければ、自分を自分として認識することが出来ない、動物実験の話。

鏡を持って離さない女には気をつけよ。
鏡は悪魔のものである。
鏡に映った自分の姿はまやかしである。
鏡に映ると魂が吸われる…などの迷信。

「鏡」と「自己認識」の話はものすごく興味深いものがありますね。
特にチンパンジーの話はアウトサイダーにものすごく関連してると思う。


…さて。
話を戻します。
鏡は、その高価さゆえ「絵画」と同じようにして使われることが多くなりました。
すなわち、絵画のある場所に、同じ大きさの「鏡」を飾るんですね。
暖炉の上とかに鏡が飾られている部屋、たまにありますね。
どうも、絵画が鏡に取って代わられた、それが名残みたいです。
そして、インテリアとしても鏡は重宝されたようです。
なんたって部屋が広く見える。


すなわち…。
アウトサイダーの主人公が見た「鏡」は、
インテリアとして、装飾として、部屋を美しく、広く見せるための「鏡」だったんじゃないでしょうか。

パーティー会場でダンスを踊るため、あるいはドレスを直すための鏡。
まるで「同じつくりの別室」に繋がっているような鏡。
そして…。

アウトサイダーの主人公は、気づいてしまうのです。
自分が世の中の「のけもの」、アウトサイダーであることに。
あれほど恋焦がれていた、外の世界には全く交われないということに。


冷たく、光沢のある、ガラスの表面に触れてしまった、あの時から。

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