読書週間だから好きな本紹介するその5「夜を乗り越える」


人間には2種類の人間がいると思います。
太宰治の「人間失格」を読んで「これは自分だ」と考えることの出来る人間と、できない人間です。




第5回読書週間だから本を紹介しようシリーズは、
2015年芥川龍之介賞を受賞した「又吉直樹」の「火花」…ではなく、「夜を乗り越える」を紹介します。


夜を乗り越える(小学館よしもと新書)
又吉 直樹
小学館
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この本の刊行日は2016年6月6日。
なので、私が服を買いに行ったついでに寄った本屋で、新刊コーナーでこの本を目にしたのも、恐らく6月のある日でしょう。
私はぼーっと眺めていた新刊コーナーで、気になる真っ赤な本を手にとりました。

当時は「芥川賞をお笑い芸人が取った」のような何かで、本屋が随分又吉さん推しだった気がします。
ポスターにでかでかと書かれた「又吉直樹」の字とか、ナツイチのポスターとか。
私はというと、彼に全く興味はありませんでした。
「なんでお笑い芸人が芥川賞取ってんの?芥川賞って権威そんなに失墜したの?」と鼻くそほじりながら考えていたレベル。
でも、帯にでかでかと書かれた、あの髪の長い彼と、「なぜ本を読むのか?」の字に引かれて、ぱらぱらと本をめくりました。

1ページ目で、私は深く深く反省しました。
ああダメだ、お笑い芸人だと、侮っていた私が間違っていた。すげえ申し訳ない。
この又吉直樹って人、本を読んできた人間なんだ。

たくさん本を読むと、私の場合好きだから読んでいるだけなんですが、
「頭のいい人が書いた文章」「悪い人が書いた文章」「慣れている人が書いた文章」「そうではない文章」が、すぐにわかるようになります。
この人は、何だろう、さすが芥川賞をとった人なんだな、と思いました。
まず、幼少時代の思い出を冒頭に持ってくる点で、引きこみ方というか、手馴れている感じというか、まざまざと見せ付けられました。
読者にわからせようと、話しかけてきてくれるのがものすごくよくわかる文でした。
我ながら手の平返しが酷いです。


…さて。
3分の1ほどこの本を読んだ後、私は本を棚に戻しました。
私は服を買いに来たのです。本なんか買ってる余裕はありません。
気になった本を全部買っていたら、明日の朝日を拝むことは出来ないでしょう。
その日は、「ああなんか、あの人すごい人なんだな」で終わりました。

家に帰った後、ネットで「夜を乗り越える」をぐぐりました。
評判は上々のようです。
タイトルが指す「夜」とは、あの太宰治が自殺を決行した日、6月13日。
その「夜」をさしているそうでした。



2週間ほどたった、ある夜のことです。
今にも雨が降り出しそうな、どんよりとした夜でした。
私は自室で、ぼんやりと考え事をしておりました。

ふ、と頭に思い浮かんだ言葉がありました。
「夜を乗り越える」。
夜を乗り越える。
よるをのりこえる。のりこえる。夜を。のりこえる。


「6月13日の、あの夜さえ乗り越えられていたら。」

「それは、5回目の自殺未遂になっていたのかもしれないのです。」

「その夜を、乗り越えないとダメなんです。」

「その夜さえ乗り越えれば、僕は「ダウンタウンDX」で、無茶苦茶笑いを取っているジジイの太宰や、
明石家さんまと絡んでいる太宰が想像できるのです。」






私は自転車を飛ばして本屋に行きました。
閉店間際の店員さんと目が合ってしまったので、本の場所を聞きます。
差し出された本をそのまま購入し、夕飯を適当に買って、
ぱらぱらと降り始めた雨の中、私は自転車をこぎ始めました。
懐に「夜を乗り越える」を入れて、私は走りました。
本屋の暖房が、まだ本のページに挟まっているようで。
懐に入れたそれは、終わりかけのカイロのように、ほのかに暖かかった。

私の部屋にはテレビがありません。
番組もほとんど見ないどころか、テレビがあって番組をやっていたとしても、ネットをしたり本を読んだりです。
私にとって「お笑い芸人」とは、ほとんど交わることのない、遠い世界の存在です。

唯一、又吉さんを見たのは、
この前の年末、紅白歌合戦で、ゴールデンボンバーと何かやっていたときでしょうか。
なんか服脱いで、なんかやってたんです。除夜の鐘だったかな。
父親が「芸人は大変やな」と呟いていたことを覚えています。
細すぎる体と、モサモサの髪の毛が印象的で、今思うとすげえ哀しそうな目をしていた気がする。


「夜を乗り越える」には、私が普段考えていることがたくさん書いていました。
本を読むことについて。
本を読み直すことについて。
本を批判することについて。
読まれもしないうちに、作品を批判されるということはとても辛いということ。
「怒られるのかな」と思いながら書いたのに、誰にも怒られなかった時の肩透かし。
あるとき、あの場所での気まずさ。
閉塞感。疎外感。馬鹿にされること。悔しいと思うこと。
本を読むのが好きだということ。
すごく面白い本だと思いました。
たくさん共感しました。
後半はあまりにも共感しすぎて、もしかして私はこの人に洗脳ビームでも受けたのかと怖くなったほどです。

「夜を乗り越える」は面白い本です。
私は、近代文学を久しぶりに読み直したくなった。
現実に、何冊か読み直しました。
特に芥川龍之介の「河童」は、この本がなければ再読することはなかったでしょう。
本当に面白かった。貴重な機会だった。
これからもたくさん本を読んでいこうと思います。


ホントにこの本は面白くて、「第2図書係補佐」もすごく面白くて、
又吉さんの手を握って「面白かったです」といいたいぐらいに、コンタクトがとりたいぐらいにファンになってしまって、一時期は彼にファンレターでも出そうかと考えておりました。
が、彼の本来の姿である「お笑い芸人」として、私には全く知識はないし、
そもそも私のような人間はファンレターを書くのには不向きな人間です。
一番の理由は気恥ずかしさ。ネット上のここならバレないでしょうし、「ブログ記事で本の紹介」ということで彼へのファンレターとさせていただきます。
彼の書く文章は面白く、また10年か20年して、彼の人生が経過したら、
また違った味の面白い本を出してくれるものと信じています。楽しみにしております。今もすげえ面白いけど。




今、手元には作者買いをした「第2図書係補佐」があります。
5年前、彼が恐らく31のときに刊行された本です。
「中陰の花」の解説に、こんなシーンがあります。

又吉さんが占い師に手相を見られ、
「長男だね?本好き?実家離れたんだね」と、ズバズバと当てられるシーンです。
占い師さんは、彼の手相を気に入ります。
そして、「今何歳?26?へえ。27,28…33,34,35…あっ!!!」というシーンです。
本の中の彼は、「35の自分に、一体何があるのだろう?死ぬのかな?」と首を傾げます。


35歳は、彼が「火花」で芥川龍之介賞を受賞した年でした。







私、実は将来、
絵描きか、作家か、本屋か、占い師になりたかったんですよね。
ぶっちゃけ今もなりたいけど。

それでは。
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